きのわのビジョン

きのわの立ち上げと「木はり絵」の誕生

伐採が進む熱帯林

日本の森を健全に

きのわの創業メンバーは、かつて仏壇メーカーに勤めていました。

一般的に、仏壇というと、紫檀や黒檀といった非常に高価で貴重な木材が使われます。これらの木材は、東南アジアや南米などの熱帯林に自生しているものを伐採し、日本国内に流通させているのですが、同時に、成長スピードがとても遅く、積極的な植林もされていないので、近年減少する一方でもあるのが現状です。きのわスタッフ(男性)は、前職で東南アジアに駐在した経験もあり、実際に熱帯林が減少しているさまを目にしてからずっと危機感を感じていました。

その危機感を具体化することができずにもやもやとした想いを抱えていたとき、フェアトレードの説明会に参加する機会がありました。そこで、発展途上国の森林が、大規模なプランテーションや木材売買などのために開拓され、その面積が加速度的に減少している現状を知りました。その中でも問題なのが違法伐採。森林資源が豊富であることから、利益のために後戻りできないほどの違法な森林伐採が繰り返されていました。もちろん、現地の人たちからすれば生活のためにやむなく、という側面もあるでしょう。それらの木材はほとんどが輸出されていて、その中には日本も含まれていました。

一方、日本国内では、戦後に成長の早いスギやヒノキといった針葉樹が植林され、それが思惑通りに成長して伐採時期を迎えていました。それにもかかわらず、自由化により安価な輸入材ばかりが使用され、国産材の需要は激減しているのが現状でした。需要が減れば国内の林業も衰退する、そんな悪循環により、国内の木々は放置され、土砂崩れや花粉症などの二次被害も拡大していたのでした。

このような現状を知り、日本はもっと国内の森林資源を活用していくべきだと考えました。間接的とはいえ日本が違法伐採に関与していること、国内の林業が衰退していること、これらをすぐに改善することは難しいことです。しかし、植えて育てて、適切な時期が来たら伐採してまた植える、そんな健全な循環が日本全国で当たり前の状態になってほしい。そのためにはまず、国産材を積極的に使うことから始めたい。そんな想いから、木はり絵工房きのわの構想づくりが始まりました。

 

日本の里山

新しい木工のアイディアを

とはいうものの、いった何をどうするところから始めればいいのか…
仏壇メーカーでは開発系の部署にいたこともあり、やはりモノづくりがしたいと考え、最初は他の木工メーカーがつくるものを参考にしようとあちこちリサーチに歩きました。しかし、デザイン性に優れたもの、高度な技法でつくられたものなど、多くの素晴らしい製品がある中で、同じようなものをつくるのではなく、独自性を出すことが必要だと感じました。

なにか画期的なアイディアをといろいろ模索していたとき、ふと、以前出張で訪れたラオスの空港で見つけたお土産のことを思い出しました。薄い木材を貼り重ねたものに彫刻を施してつくったお城のオブジェ。なんとなく目新しさを感じて思わず手に取り、買って帰ってきたものの、仏壇メーカーの業務の中で日の目を見ることがなかったものです。しかし、きのわの構想づくりで新しい木工のアイディアを考える中で、もしかしたらこのお土産がカギになるかもしれないと思い始めました。最初に感じた目新しさを信じて、これを応用した新製品をつくろうと一歩踏み出すことにしました。

 

材料としての突板

誰にでもつくれるアート作品を

仏壇に限らず、家具や部屋の内装でよく使われる材料の一つに突板(つきいた)があります。これは、木材を厚さ0.2mm〜1mmほどに薄くスライスして、テーブルの天板の表面や、部屋の壁、天井などに貼りつけて使うものです。無垢の家具と同じような風合いを感じながら、無垢材よりも安価で、かつ希少な木材もより広い面で活用することができることから、広く用いられる材料です。この突板を使って、試作が始まりました。

テーマは「たくさんの人が『長く』木に興味を持ち、リピート購入もらえるような製品」。美しく完成された製品は満足度が高いですが、継続して購入されるか、と考えるとなかなか難しいものです。しかし、プラモデルのようなキットなら、一つ完成したらまた次、となるのではと考え、「年代を問わずつくる楽しさを感じてもらえること」もテーマに加えました。突板は画用紙のように薄いシート状ですから、特別な道具を使わずとも、はさみやカッターナイフで容易にカットすることができます。ペーパークラフトのように、突板を貼り重ねてアート作品を手づくりする。「木はり絵」の誕生です。今ではラインナップは80アイテムを超え、一定のリピーターにも支えられる存在となりつつあります。

 

成田能人 郷間律子